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  舞え!北京の蝶々〜地殻変動は始っている  (2005/5/13)
北京で一羽の蝶々がはばたいたら、ニューヨークでハリケーンが生じる・・・・。
複雑系の理論、カオス理論でよく語られる例え話である。蝶々のはばたきというごくわずかな気流の乱れが、巨大な嵐を引き起こす。ミクロの“ゆらぎ”が予想をはるかに超えたマクロの変化をもたらす。そのような意味である。


ノーベル化学賞を受賞したイリヤ・プリゴジンは言う。ある生態系が淡々と動いている間はその生態系を構成する分子は隣の分子しか見ていない。したがって、いつもあること、昨日の続きが今日もあるという同じ文法によって支配されている。しかし、この生態系に突然異質分子が猛烈なスピードで入り込むと、生態系はその時から新しい文法によって支配される。すなわち、異質分子によって生態系を構成する分子にハレーションが起こる。隣だけではない別の分子と化学反応が起こり、新しい文法に支配されてゆく。
 

日本は戦後、右肩上がりの中で制度を確立し、成功してきた。しかし社会の前提が急速に変化する中で既存の体制を引きずり、同じことを繰り返すことによって、日本社会は閉塞感に満ち満ちてしまった。この状況を打破するには、新しい異質分子が“ゆらぎ”を与えるしかない。異質分子が猛烈なスピードで入る込むことで、今までこんなものだと思い込んできた民主主義や資本主義の在り方が根底から問われ、ひいては社会、政治、経済の姿をも大きく変えることになる。


例えば、民主主義の根源である選挙を考えた場合、日本において選挙公約はどう扱われてきたのかを改めて自問自答してみる必要がある。「今までの選挙公約は、選挙のための公約、選挙までの公約であり、お互い破っても構わないといった程度のものであった」と言ったら、言い過ぎだろうか。民主主義の権化者たる総理大臣が“公約を破っても大したことはない”と言った時、マスコミも国民も大して怒らなかった。この国の国民にとって、政党や政治家の公約とはその程度のものだったということであり、われわれ国民が作り上げてきた民主主義の質はその程度のものであったということの何よりの証である。


ここのところを真剣に考え直さなければ日本に明日はない。三重県知事時代、私は、破られて当たり前の公約を根本から変えるためにマニフェストを提唱した。一昨年の統一地方選挙では、多くの候補者がマニフェストを取り上げて、マニフェスト選挙の流れをつくり上げた。このローカル・マニフェストの成功物語をもって、各政党に従来の白紙一任、情実選挙から、契約による選挙に変えていただきたいと呼びかけ、前回の総選挙でわが国憲政史上初のマニフェスト選挙を実現した。マニフェストと言う異質分子が入り、各地域が立ち上がり、いま国の政治を変える地殻変動が起きつつあることを実感している。


リンカーンは、「オブ・ザ・ピープル」「バイ・ザ・ピープル」「フォー・ザ・ピープル」と言ったが、日本の民主主義に一番欠けていたものは「バイ・ザ・ピープル」ではなかったかと思う。「国民による」ということである。官主導の政治・行政を民主主義と思い込んできたところに日本の未熟さがある。私は、マニフェストを提唱することで、「自分達の国や町は自分達でつくるという意志があって、はじめて民主主義は価値あるものになる」ということを示したかったのである。
 

官主導による財政を通じた国による地方への介入が、いかに日本の民主主義をゆがめてきたか。補助金を取ってくる陳情政治。自立心のない、町の実力者の発想、これが政治・行政だとしてきたシステムにこそ問題がある。補助金等で地方を縛る制度が続く限り、首長は補助金を国から取ってくることに多くの時間をさかなければならない。この制度がある限り、例えば、公民館に入口がいくつできようとお構いないしの有り様で、「省益あって国益なし」のゆがんだ行政が続く。


自治体の説明責任にしても誰に対するものだったのか。補助金で縛られているため、住民にではなく、補助金をくれる省庁に懸命に説明責任を果たしてきたにすぎない。中央集権体制を解体し、自立・自己責任を旗印に分権改革の大運動を進めねばならない。しかし、分権改革を進めるというなら、首長は住民に次のように言わなければならない。「料理教室や図書館を併設せよと言うのであれば、併設いたします。しかし、足りない分は住民の皆様の負担でお願いいたします。どちらを選ぶかは住民の判断です」と。そうすれば、今度は住民の側が、議論の末、負担と受益を考えて、必要最小限の本当に必要なものを決定する責任が求められるようになる。


最も身近で負担と受益の関係が明確になる市区町村に、権限と財源を移譲しなければならない。権限と責任を明確にし、支払った税金がどのように使われているかがハッキリすれば、自分たちの町は自分たちでつくるという意識も芽生える。首長は苦い薬の入ったマニフェストを掲げ、住民には責任を与え、双方がウィン・ウィンの関係をつくり上げることが求められている。47都道府県、3200ある市区町村、そして国民一人ひとりがそれぞれの責任のもと「北京の蝶々」としてはばたき、そのうねりが日本中を席巻すれば、地域の政治が変わり、やがて政府や政党、日本の民主主義の質を根底から変える巨大なハリケーンになると確信している。
■北川正恭  略 歴■
1944年生まれ。1967年早稲田大学第一商学部卒業。1972年三重県議会議員当選(3期連続)、1983年衆議院議員当選(4期連続)。任期中、文部政務次官を務める。1995年、三重県知事当選(2期連続)。「生活者起点」を掲げ、ゼロベースで事業を評価し、改革を進める「事業評価システム」や情報公開を積極的に進め、地方分権の旗手として活動。達成目標、手段、財源を住民に約束する「マニフェスト」を提言。2期務め、2003年4月に退任。現在、早稲田大学大学院公共経営研究科教授、「新しい日本をつくる国民会議」(21世紀臨調)代表。

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